just in case......エレガンスを考える

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nspiration from "The romance of Lacroix" by Patrick Demarchelier October 1987

 

4月29日の日本経済新聞に、「エレガンスへの弔鐘」1) という素敵な記事がありました。ユベール・ド・ジバンシイの「美意識」について書かれたもの。とても共感させられる内容だったので、引用させていただきます。

「彼が追求したエレガンスとは、顧客の人格や生きる姿勢といった内面にまで迫る価値観といえる。」2)

「こんな言葉を残している。「女性は身につけるものでエレガントになるのではない。どのように身につけるかでエレガントになる。」「どのように」は「どんな人間として」と意訳できる。彼にとってエレガンスとは「整えた外面」と「知性、教養、生き方などの内面」との調和だ。」3)

そして、ジバンシイが礼賛された時代を振り返り、「経済成長で大衆化が進むなか、より豊かな精神性に憧れる人々もエレガンスに価値を見いだした。」4)

そして、記事は、こんなメッセージとともに結ばれていました。「だが、21世紀に入ると、ジバンシイが追求した価値観に社会は重きを置かなくなったようだ。革新という名のもとでの装飾、あるいはシンプルという表現での徹底した日常性。そこに「気品」や「優雅」への目配りはあるのだろうか。ジバンシイのエレガンスの時代は終わった、だが、新世紀のエレガンスとは何か、そろそろ考えてもいい。」5)

さて、新世紀のファッションとは?ファッションは、ライフスタイルの変化や、世界の勢力図、関心事に大きく左右される、社会現象。最近、ライフスタイルの変化といえば、ショックだったと同時に、そうだなぁ、とつくづく思ったことがありました。それは、新卒の新入社員がコンピューターを使ったことがない、ということ。インタビューすると、テレビを見ない、雑誌を見ない、それからコンピユーターは使わない。そうなんです、、もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、現代っこなのに、コンピューターが苦手なのは、スマートフォン時代だから。ちょっと前に、「computer? what’s computer?」とタブレットを使う子供がいうTV CMがありましたが、もうコンピューターはひと世代前。スマートフォンがあれば、全部、手のひらでできてしまうわけです。どこでも携帯できるから、ずっと、四六時中その世界に没頭できる訳で、実際には、ネット上に生きているような時間が多く、だから、歩きながら、通勤しながら、常に、両手が解放されるバックパックスタイルがどんどん増えています。この間、電車に乗るひとを見ていたら、80%がトートバック。うち、レザーではなくてエコバッグが10%。そして、あとの20%は、バックパックでした。かくいうわたしは、バックパックではないものの、バックに求めるのは、両手が開くようにクロスボディができるストラップは必須。そういうところに、現代のユーティリティがあるわけですね。

当然、生まれた時からそういう環境にある若い世代が、とどまるところを知らずに進化して、意識せずとも新しい時代を造り、「未来」がおもろくて、飽きさせない分、突き進むわけで、世代間のギャップはますます広がり、過去へのノスタルジイを世代を超えて共有していた、スローで優しい時代は終わったのではないかと思います。そして、ファッションだけではなく、社会全体の価値観の変化が、時代を攪拌中。でも、これは、決して嘆くべきことではなく、むしろ、渦のような流れの中に、抗わず、時代を客観視しながら、「新世紀のエレガンス」を考えるのはいかがでしょう。

そんなことを思いながら、客観的に社会を眺めると、でも、やっぱり、美しさの基準は、普遍的なものなのではないかな、と思うのです。

たとえば、エレガンスが人の内面に存在すること、美しさはどのように身につけるか、つまり、装いとの向き合い方、態度である、ということ。それから、人を納得させるバランスなど。人間の心に突き刺さる不文律的なものが確かに存在するのではないかな、と。

「意識して装う人」から発信されるメッセージは、語らずとも伝わります。そういう人は素敵だし、そういうことが自分でも楽しいと思います。そして、雑誌でもテレビでもなく、個人が発信源となった今の時代に、もし、羅針盤を失いそうになったときは、今の心の琴線に触れる「テーマ」を直感的に探すことだと思うのです。

例えば、たくさんの才能が集まって作り出された美しさの結晶「Vogue 100」 a century of style から、今日、心にふれる美しさのテーマを見つけ、現代版にアレンジしてみる。そんな実験はどうでしょう。

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左 Inspiration from "The romance of Lacroix" by Patrick Demarchelier October 1987

右 Skirt The Hyalines / Shirt Barba / Necklace Simon Alcantara / Knit Aliquam

ウェストマークしたAラインスカートのエレガンスを現代アレンジで再現。女優気分で、歩幅広めに、Aラインのスカートの揺れる裾から楽しさを振りまくように街を歩いて。

 

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左 "Marlene Dietrich in London" by Cecil Beaton October 1936

右 Dress Martin Margiela / Jacket Aliquam / Belt The Hyalines

 

ハンサムな女性を代表する、ファッションアイコン、マレーネ・デートリッヒの妖艶なシルエットを礼賛し、女性らしさのムーブメントをリバイバル

 

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右 Tops Proenza Schouler / Skrt Cedric Charier / Bag Proenza Schouler

 

デジタルを想起させるラインの連続。スポーティに転化させると、現代風に。

 

廣田尚美さん著「20世紀からのファッション史」という本の中に、ヴィヴィアン・ウェストウッドの言葉を引用していました。「過去において人間が何を成し遂げたかを理解し、それを今日のものと比較するように努めるべきです。そうすれば、私たちは、原因と結果の因果関係がわかるのではないでしょうか。そこから、未来がどのようなものか少しずつ見えてくるかもしれません」

 

ファッションは、楽しみながら、感じて、考える。まさに、毎日が実験だと思うのです。そして、気持ちがフィットするイメージを探して、寄り添って、演じきれば、ファッションがイメージを現実に引き寄せてくれたりします。

とても社会的なことを反映するファッションですが、実は、極めて個人的なこと。

それでいいのではないか、と思ったりもするのです。

 

 

 

それから、もつひとつ。わたしがお店でお客様に出会うこと、そして、お客様にファッションやジュエリーをご提案させていただくのが心から好きな理由。それは、まさに、ジバンシイの言葉に潜んでいます。「女性は身につけるものでエレガントになるのではない。どのように身につけるかでエレガントになる。」「どのように」は「どんな人間として」と意訳できる。彼にとってエレガンスとは「整えた外面」と「知性、教養、生き方などの内面」との調和だ。」 ひとりひとりの内面の美しさ、隠れている美しさを引き出すこと、もしくは、美しさを知っている人から学ぶこと、その全てが、ひとりひとり違うので、常に新鮮な発見と驚きがあります。そして、それが、少なからず、毎日の幸せにつながっていると思うのです。 

1)-5) 2018年4月29日 日経新聞 著 松本和佳